農業ドローンで使用できる農薬について
農業ドローンは、肥料散布やドローン撒種など、広い活用方法に期待がされていますが、
まず一番に活躍しているのは農薬散布です!
本コラムでは、「ドローンでは、どんな農薬が撒けるのか?」という疑問に対して、解説していきます。
農業ドローンと防除
作物の生産にとって、“防除”は切っても切り離せない大変重要な工程の一つです。
世界各地の神話にも、蝗害(バッタの大量発生による天災)の記録が残っているなど、
人類が食料の生産を行う中で、病害虫と戦い続けてきた歴史は古く、確実に遡れる範囲では、
3世紀の中国の農書に防除対象の天敵を用いてその数を減らす防除方法として、生物的防除が取り上げられている様です。
防除の方法には、その他に、耕種的防除と物理的防除という農薬を使用しない防除方法があり、
農業ドローンが可能なのは4つ目の方法である化学的防除となります。
化学的防除が一般に普及し始めたのは、第二次世界大戦後の食糧難の時代です。
農薬の普及と品種改良などが相まり、食料生産は改善され、水稲の10a面積当たりの収量は戦前に比べ、2倍~3倍へと増加しました。
現代においては、オーガニックブームもあり、農薬に頼らない防除方法と組み合わせることで、
使用する農薬の量を減らす取り組みなども行われていますが、完全無農薬栽培の面積は全国の圃場における1%にも満たず、
まだまだ地上で農薬を散布するブームスプレーヤや、無人ヘリやドローンを用いた空中散布が主流です。
農業ドローンで使用できる農薬は?
農薬の取扱方法については、農薬取締法という法律があり、農薬事故を防ぐため、剤ごとに使用方法や使用量などが細かく規定されています。
とはいえ、土壌混和等の物理的にドローンではできない散布方法以外であれば、禁止されているわけではなく、
使用方法に、「無人ヘリコプターによる散布」と記載されている農薬だけでなく、単に「散布」と書かれた農薬も散布が可能です。
ここで肝要な点として、10a(1反)当たりの散布液量です。ここで、同じ病害虫に効果のある農薬2剤を比較してみます。
10a当たりの散布量が7.5L~15Lである農薬Aであれば、タンク容量8L以上の機種で、1回か、2回の飛行で、10aへの散布が可能です。
しかし、10a当たりの散布液量が200L~700Lとなっている農薬Bは、タンク容量8Lの機種では、25回以上の飛行が必要となります。
そのため、農薬Bはドローンで使用できない農薬ではないものの、作業効率の面から現実的ではないと言えるでしょう。
しかし逆に、農薬Aの様に、少ない散布液量での使用が可能な農薬の登場で、水稲や野菜に比べ、登録農薬が少なかった果樹の分野での
ドローンの活用も広まっています。「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」では、毎月10数種程度の新たにドローンに適した農薬として登録された農薬を発表しています。
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/nouyaku.html
ドローン防除の具体例
ドローンを使用した農薬散布、「ドローン防除」は近年ますます普及の一途をたどり、
特に、これまで有人ヘリや無人らヘリコプターを使用した防除が行われてきた水稲栽培は、面積も大きく、以上規模が拡大しています。
政府は水稲の病害虫防除においては、その面積を100万haにすることを目標として掲げ、補助を行う政策でドローン防除を推進しています。
▼各地での検証結果の報告(様々な地域、作物で省力、省コストが確認済み。)
出典:農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会
水稲防除で使用する農薬の種類
それでは、具体的に、お米作りを例にドローン防除で使用する農薬を見てみましょう。
出典:https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/noyaku/
まず、お米作りでは、春に苗床を準備し、5月頃、田植えを行います。この前後では除草剤の散布でドローンが活躍します。
▼ドローンでの使用を想定して開発された除草剤の例
出典:https://www.nissan-agro.net/altair/
※特定の農薬を推奨するものではございません。
※農薬の使用に当たっては、ラベルに記載の使用量・使用方法をよく守り、自己責任で使用してください。
田植えが終わった稲が徐々に育ってくると、病気への対策が必要となります。主なものとして、いもち病、紋枯病などがあり、水に8倍希釈で10a当たりに800mlを散布する液剤が多く存在します。
▼ドローンで使用可能ないもち病の農薬の例
出典:https://www.i-nouryoku.com/prod/newprod/blasin/index.html
※特定の農薬を推奨するものではございません。
※農薬の使用に当たっては、ラベルに記載の使用量・使用方法をよく守り、自己責任で使用してください。
その他には、稲の養分を吸汁するウンカやカメムシなどの虫害への対策も必要です。なお、これらの散布を行う際には、1種だけでなく、その他の病虫害への防除を同時に行うことも多く、(いもち病+ウンカ・カメムシ防除=ブラシンジョーカーフロアブル)を使用したり、2種類以上の農薬を混合して、同時に散布を行うことも多いです。
▼フサライド剤にその他の成分を混合した剤
出典:https://www.i-nouryoku.com/prod/newprod/blasin/index.html
※特定の農薬を推奨するものではございません。
※農薬の使用に当たっては、ラベルに記載の使用量・使用方法をよく守り、自己責任で使用してください。
水稲以外で使用する農薬について
水稲以外の作物にも使用でき、ドローンでの散布に適した農薬のいくつかもご紹介いたします。
アミスター20フロアブル 各種野菜、畑作物、茶のさまざまな病害に対応可能な殺菌剤
出典:https://cp-product.syngenta.co.jp/product/amistar_20sc
ダントツ水溶剤 稲、野菜、落葉果樹、かんきつ、茶、花きと幅広い作物に使用可能
出典:https://www.i-nouryoku.com/prod/search/nouyaku/detail/1/96
スタークル液剤10 稲、野菜などに使用可能な殺虫剤
出典:https://www.mitsui-agro.com/products/recommend/usefulinfo/measures-2/starkle-lq/
プレバソンフロアブル5 50を超える作物使用可能な殺虫剤
出典:https://www.fmc-japan.com//Agricultural-Solutions/Prevathon
農業ドローンで使用可能な農薬の探し方
・ 農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会
(パソコンの場合、Excelファイル「ドローンに適した農薬一覧」をダウンロードし、CTRLキーとFを同時押しで検索)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/210301_doron_noyakuichiran.xlsx
・ 一般社団法人 農林水産航空協会
https://mujin-heri.jp/index11.html
最後に
農林水産省は、「みどりの食料システム戦略」において、2050年までに化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減することを目標として挙げています。使用量自体を50%低減して栽培を行うことは難しいため、リスクの低い農薬の開発やドローンを始めとするスマート農業の導入による新しい病害虫管理体系が必要とされています。この他のコラムでは、それらの点についても解説していく予定です。