農業ドローンで使用できる農薬以外について
様々な分野での活用が進むドローンの中でも、いま最も活用が進んでいるのは農薬散布です。
しかし、発展著しい農業ドローンの真価が発揮されるのは農薬散布以外での活用法でもあります。
本コラムでは、「農業ドローンで使用できる農薬以外にはどのような資材があるのか?」という疑問に対して解説していきます。
水稲のドローン直播について
日本の水稲栽培では、田植え機を使用して、移植を行う“田植え”が一般的です。田植えを行うには、種もみを消毒、苗箱へ播種し、ビニールハウスで育苗、軽トラックに積み込み圃場へ運搬、人の手で田植え機にセットし、田植え。と人的・時間的コストを大きく掛けて行っています。
この方法は数十年前から続けられており、今後もまだまだ主流の方法であることに変わりありませんが、直接種もみを圃場に直播する方法への転換も増えていくと考えられています。(アメリカの水稲栽培では、セスナ等の航空機から直接種もみを播種する方法が一般的) 日本における直播の方法としては、背負式動噴や乗用播種機、無人ヘリでの播種方法が幾度となく、試みられてきました。
しかし、直播の導入には難しい点がいくつもありました。まず、田面と水管理の調整が難しく、播種後、種もみを鳥に食べられてしまう食害であったり、発芽しない、苗立ちが悪いなど、収量の確保が難しいのが実情でした。また逆に、播種する量を増やして、たくさん撒けば良いというわけでもなく、密苗になり過ぎると徒長を起こす場合や、稲刈り時、コンバインの侵入に支障を来たすなど、技術の確立には様々な懸念事項がありました。
その様な中、近年一段と発展を遂げているのが、鉄コーティング技術であり、種もみを数種の剤でコーティングした種もみを使用することで、鳥害や浮き苗の軽減が確認されています。また、田面の状態が完全に均一でなくとも発芽率が左右されづらい新たなコーテイング種子も登場し、乗用播種機での点播ではなく、ドローンでの全面散布でも失敗せずに直播栽培が可能なことが確認されるなど、今後の普及が期待されています。
ドローン直播のメリット
水稲栽培における直播栽培、そしてそれをドローンで行うメリットには、いくつかが考えられますが、
まず一点目として、田植えがなくなることで、苗運びなどの労力が省力できる点があります。圃場までの運搬、田植え機へのセットは身体的な負担が大きく、その重労働から解放される点は大きいと考えられます。
次に二点目として、作期分散ができる点があります。苗立ちまでをビニールハウスで行う移植と直播では、成長のスケジュールがズレることで、人、設備の負担を緩和することが可能です。例えば、ある設備の利用が一つのタイミングに集中している場合、その設備を複数台用意する必要がありますが、作期分散を行うことで集中せず、1台を長期間利用することで設備コストを抑えられる可能性があります。これは、設備だけなく、従業員を雇って作業を行う場合には、人件費の削減にも繋がります。
次に三点目に、時間的コストのカットができる点が挙げられます。育苗にかかる時間が省略されるため、浮いた時間を他の作業に使うことが可能となります。また、移植と直播を組み合わせることでより大規模な面積の管理が可能になるかもしれません。
肥料コストの増大、買取価格の下落が著しい近年、収益を上げるためには、大規模化で設備コストを削減することが望まれること、少子高齢化に伴う担い手不足で増える離農や休耕田の増加が進んでいることを考えると、闇雲に運用面積を増やすのではなく、移植と直播を組み合わせることが必要かもしれません。
以上のメリットを感じられている水稲農家さんにとって、直播栽培の導入は悲願であり、今現在使用している田植え機のアタッチメントを直播用の播種機に取り換えたり、ドローンを購入して、新たな一歩に踏み出す方が増えています。直播を乗用播種機で行うか、ドローンで行うかの二択にはどちらもメリットがありますが、直播栽培においては、初期の除草も重要であるため、直播と同時に除草剤を散布する場合が多く、その場合、ドローンであれば、播種完了後、空になったタンクに除草剤を投入し、再度同じ飛行を行うだけで完了するので、手間が少なく、そして乗用播種機の2~3倍の速度で飛行するドローンであれば、作業時間が大幅に短縮可能なため10a当たりの播種が20分もせずに完了してしまうことでしょう。
ドローンで可能な肥料散布
さて、ここまで水稲のドローン直播について解説してまいりました。
(他のコラムでは、ドローンで可能な農薬散布についても解説しております。)
この章では、ドローンでできる、農薬、水稲種子以外の散布可能なものについてご紹介いたします。
農業ドローンで散布が可能な物は、液体もしくは、乾燥した0.5mm~10mmの粒剤です。農薬以外では、肥料や成長促進剤なども可能です。
植物は根から土壌の栄養分を吸収し、果実に栄養を貯めますが、人がその果実を収穫することで、圃場からその栄養分を収奪してしまいます。
そのため、食料生産において土づくりは最も重要とも考えられ、肥料の散布は必須です。
これまでは、背負式動噴やトラクターに取り付けたブロードキャスター、水稲の場合は移植同時施肥が可能な特殊な田植え機などで散布を行ってきました。
水稲防除の多くが1反当たり8Lの少量散布であったのに対し、化成肥料の散布は1反当たり40kgという場合もあり、これまで肥料散布はドローンにとって不向きであると捉えられる場合も多くありました。
しかし、近年は大型のタンクを要するドローンが増え、中には、一度に40kgの肥料を搭載でき、360°への粒剤散布を可能とするドローンも登場し、注目を浴びています。更なる大型化へも期待されていますが、既存の機械との使い分けとして、ドローンでの施肥が期待されているのは基肥ではなく、追肥でしょう。生育中の圃場には、大型機械が侵入できないもしくは、そのために植えない場所を作る必要がありましたが、空中からの散布ができるドローンであれば、追肥が行いやすくなります。
世界的な需要上昇を受け、肥料の価格は日々上昇しています。これを受け、農林水産省は、肥料コスト低減につながる提案をいくつか掲げており、その一つにドローンを用いた追肥を活用する方法を挙げています。
出典:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/drone.html
上記の実施例では、マルチスペクトルカメラを搭載したセンシングドローンで得た情報をPCで解析し、成長の良い箇所には肥料を少なく撒き、成長の悪い箇所には肥料を多く撒く可変施肥で、収量を下げずに肥料の総使用量を低減することに成功しています。しかし、こうしたリモートセンシングを行わずとも、基肥一発肥料の使用をやめ、基肥+追肥の2回に分けた施肥で肥料コストを低減する方法も提唱されています。
出典:https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/210528.html
液肥やバイオスティミラント資材
農薬、種子、肥料と続いて、ドローンで散布が可能なものとして、液肥、バイオスティミラントといったものあります。
出典:https://www.affrc.maff.go.jp/docs/innovate/attach/pdf/index-3.pdf
バイオスティミラントは、植物が本来持つ抵抗力を引き出すことを目的として、近年農薬に代わりに、注目される新たな農業資材です。
ヨーロッパに続いて日本でもこれから使用が増え、ドローンでの散布も増えることが予想されています。
土壌改良資材の散布
これまで農業ドローンが活躍する時期は春~秋に掛けて、特に夏の防除での利用が多く、他の農機具同様、使用タイミングが限定的と考えられてきました。しかし、土壌改良剤の散布であれば、冬の間でも農業ドローンが活躍することでしょう!
日本の水田では、数十年、はたまたそれ以上の間、水稲栽培を繰り返し行い、その土壌からは土本来が持っていた栄養分を収奪しています。毎年化成肥料を投下することで、窒素・リン酸・カリの3大栄養素は補充されているとしても、その他の微量元素はどうでしょうか?
例えば、鉄が不足した圃場では、秋落ち減少が生じる場合があります。こうした老朽化水田には、肥料以外の土壌を回復させる資材として、土壌改良剤を農閑期に散布することがあります。鉄やケイ酸、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル成分を補充する資材で農業ドローンでも散布が可能な資材も販売されており、また農業ドローンの活躍する頻度が増えるため注目されています。
その他、ミネラルの補充に加え、圃場の物理性向上も促すバイオ炭のドローン散布や、堆肥での土壌改良では10年掛かっていた点を即効性の高い腐食物質を散布することで改善を行う方法も今後拡大が予想されています。
ビニールハウスの遮光剤散布
発展著しい農業ドローンでは、作物に対して散布すること以外での活用も検討されてきました。例えば、スタジアムの観客席に消毒液を散布することや、遠くに物を運ぶ物流、太陽光パネルの洗浄など。こうした取り組みは少しずつではありますが続けられております。その中で特に注目を浴びているのは、ビニールハウスの遮光剤散布です。近年ビニールハウス内で温度が上昇し過ぎてしまう問題があり、ビニールハウスの外側に専用の遮光剤を散布することが増えていました。地上から高圧のホースで数倍に薄めた遮光剤を塗布したり、3~4mほどの高さまで作業員が上がって作業を行っていましたが、これをドローンでできないかという需要があり、開発されたのが株式会社アキレスの「ファインシェードスカイ」です。
引用:https://kyodonewsprwire.jp/release/202204139929
さいごに
このように、農業ドローンが活躍する場面は、農薬散布だけはでないという点について解説してきましたがいかがでしたでしょうか?
もちろんここで紹介したものだけではなく、日々新たな活用法の模索が続けられているのが農業ドローンという新しい農業機械の特徴です。
新しい活用法の発見が直接的に現代の農業が抱える課題の解決に繋がるため、元々農業以外の事業を行っていた企業や個人が農業ドローンを購入し、実際に新たな活用法を試すことも行われています。農業ドローン相談室ではこうした新たな取り組みについても取り上げていく予定です。